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ローマ帝国衰亡の原因は何か?

kd-tk

結論

・「ローマ帝国は滅亡し、文明は衰退した」という「衰亡説」と、「衰退・滅亡ではなく新たな社会に変容した」という「変容説」の二つの説がある。
・衰亡説は内因論外因論に大別され、さらに6つのタイプに分類されている。
・内因論と外因論は対立するだけでなく、相互に影響し合う関係性を持つ。

ローマ帝国衰亡の原因の6分類

ローマ帝国終焉の原因、すなわち西方の帝国統治体制の解体の原因の説明について、6つのタイプに分類されている。(a1)
大別して内因論と外因論に分けられる。(c1)

内因論

1. 宗教的な説明

キリスト教がローマ帝国の決定的な変容の根源であるという説明。
ローマ的なるものを破壊したのはキリスト教であるとされた。
エドワード・ギボンの「ローマ帝国衰亡史(18世紀後半)」が有名。

2. 唯物論的な説明

経済的・社会的な基準に立脚した説明。
ローマの弱体化は商業の衰退や貧富の格差が原因であるとされた。
マルクス主義的な歴史家が分類される。

近年の研究例
シルクロード交易衰退と関税収入減少(b1)
(岩波講座世界歴史03, p282)

3. 政治的な説明

三世紀以来続いた帝国の失敗に基づく説明。
帝国内部の制度・組織に問題を見出している。

エドワード・ギボン

帝国の巨大さそのものとそれがもたらす悪徳に究極的な原因がある。(c1)

T・モムゼン

後期帝政は「専制君主制」、「強制国家」。国家体制が社会の萎縮と沈滞をもたらした。(c1)

「自壊説」
異民族への排外意識の拡大を原因とする説明。(d1)

4. 循環論的な説明

文明は、発展・繁栄・衰退の同じ道をたどるという説明。
諸文明の変遷に関する仮説に依拠する。

代表的なギリシア的循環史観
ツキディデス
古代ギリシアの歴史家。(紀元前5世紀ごろ)
人間性が不変であるという前提で、将来においても同様の出来事が起こるという観念。
「やがて今後展開する歴史も、人間性の導くところふたたびかつての如き、つまりそれと相似た過程を辿るのではないか、と思う人々がふりかえって過去の真相を見疑ようとするとき、私の歴史に価値をみとめてくれればそれで充分であろう。」
(ヨーロッパ史学史-探求の軌跡-p46)

外因論

外因論は、帝国滅亡の原因を外部に求め、後期帝国の内部を肯定的に理解する態度を持つ傾向がある。

5. 科学的な説明

土壌の劣化や気候の変化、健康状態の悪化や疫病の影響、その結果の人口減少。

近年の研究例

深刻な干ばつが西ローマ帝国滅亡につながる「蛮族の侵略」に引き金に
https://forbesjapan.com/articles/detail/53076?n=2&e=53016

6. 「蛮族」の「侵入」による説明

「蛮族」の「侵入」が帝国の没落の原因とする説明。
帝国滅亡の原因を「野蛮人」と呼ばれた帝国外の異民族による「移住」ないし「侵略」に帰す。
帝国内部に衰退の兆候を認めない傾向がある。

アンドレ・ピガニヨル(1883~1968)

「ローマは天寿を全うしたのではない、暗殺されたのだ」(c1)

ブライアン・ウォード・パーキンズ

「ローマ帝国の崩壊:文明が終わるということ(2005年)」の著者。
西方の帝国統治体制の解体に再び着目し、考古学的なデータから見る限り5世紀初頭の帝国西方の「蛮族」による破壊は徹底的なものであるとした。

内因論と外因論の今後

内因論と外因論は対立するだけでなく、相互に影響し合う関係性を持つ。
例えば、
●民族移動の影響の大きさを強調する場合
文明が破壊されたことに力点を置く ➡ 外因論
異民族の侵入に帝国が対処できなかったことに着目 ➡ 内因論

また、「古代末期論」の登場に影響され、衰亡論そのものも相対化されている。

古代末期論
古代末期(2~9世紀)を「衰亡」、「停滞」の時代ではなく、文化や社会の「変容」の時代として積極評価しようとする分析概念。
短期的な衰退は崩壊ではなく、より長期的な観点から変容、変化、継続、移行、発展といった積極的側面を照射しようとする立場
重要なのはローマ帝国の滅亡や衰退ではなく、古代文明がキリスト教を媒介とし、変容しつつも後世に引き継がれ、ヨーロッパ文明の伝統を形成しているという分析をしている。

引用

・文庫クセジュQ981 古代末期 ローマ世界の変容, (a1)p23
・岩波講座世界歴史03, (b1)p282
・論点・西洋史学, (c1)p42-43
・日本経済新聞 ローマ帝国滅亡に新解 排他主義まん延で自壊?変容説との議論 活発に, (d1)
https://www.nikkei.com/article/DGKDZO70062690Y4A410C1BC8000/
・古代末期とは何か?─現時点でその研究状況をふりかえる─ (e1)
 http://hdl.handle.net/10236/00027655

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